NATUREニュージーランド

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ニュージーランドの巨鳥・モアはなぜ絶滅したのか?

ニュージーランドの巨鳥・モアはなぜ絶滅したのか?

ニュージーランドの原生林は、奥深い。苔が木々のあらゆるところからぶら下がり、視界の上から下までやさしい緑で覆われている。それはまるで、架空の生き物たちが暮らす幻想的な世界のようだ。僕はそんなNZの原始の森を歩いているとき、いつもあることを思わずにはいられない。それは、

「この国の森にまだモアがいたら、どんなにおもしろいトレッキング体験ができただろう」

ということだ。高さ3.6m、体重は250kg。高さだけで見れば史上最大の鳥とされたニュージーランドの飛べない鳥『モア』。そんな恐竜のような生き物がわずか500年前までこの国の森にいたのだ。

どうしてモアは絶滅してしまったのだろう?
この記事では、これまでわかっているモアの生態や特徴と合わせて、彼らが絶滅してしまった原因について書いていきたい。




ニュージーランドの絶滅鳥モア

MOAのイメージ by Wikipedia

 

天敵のいない土地にやってきた生き物の進化は必ず「巨大化(giantism)」の方向に進むという。
モアの祖先はまだはっきりとした結論は出ていない。ゴンドワナ大陸時代の生き物が進化したとも言われるし、もっと後になってオーストラリアから飛んできた鳥が祖先になったとも言われている。分かっているのは、モアの祖先は飛べただろう、ということ。彼らはニュージーランドという哺乳類(天敵)のいない土地に適応して、進化の采を「巨大化」に振った。その過程で翼も不要となり、結果として、森を歩く、巨大な飛べない鳥が誕生することになった。

モアのサイズ比較表 by http://lostzoo.com/

モアは9種類もいたらしい(これも諸説ある)。先述の高さ3.6mのモアというのは、その中でも最大種とされたサウスアイランド・ジャイアントモアのことで、そのほかにも日本のように南北に長く標高差も激しい土地に適応して、実は大小さまざまなモアがいたことが化石からわかっている。といっても、小さいとはいえ1mは超えていたようで、現代の鳥と比べれば大きいことには変わりないが・・。

左からMOA、ダチョウ、ニワトリの卵 by http://lostzoo.com/

草食で、葉や木の実を小枝ごとむしって食べていたようだ。先住民族のマオリ族と闘いがあったという話はないから、おそらく現代のエミューやダチョウのように基本的におとなしい性格だったのだろう。足跡の化石から察するに、歩行速度は時速4km/h前後(人間が街を歩く速度と同じくらい)。体重250キロのジャイアントモアの卵はこれまた巨大で4kgもあった。

モアが絶滅した理由とは ー新たな天敵の上陸ー

Haast eagle by 3dprint.com

 

巨大なモアに天敵はいたのだろうか?
太古の森には、モアを狩れる生物がたった一種類だけいた。ハースト・イーグル(Haast Eagle)という、翼長3mもあるこれまた世界最大だった猛禽類だ。マオリ族の子どもさえ連れ去ったと伝説が残るハーストイーグルなら、きっと小型のモアは餌食にされていただろう。それでも、3.6mのジャイアントモアをも捕えて食べたかと言えば、積極的に狩りしたとは考えにくい。サバンナの猛獣が、よほどでない限り象を襲わないのと同じように。

maori and moa by Science News

 

今もニュージーランドに暮らし、全人口の10%ほどをしめるマオリ族の祖先がニュージーランドにやってきたのは、1300年ごろだったと言われている。ポリネシアから、星を頼りに新たな土地をめざしてやってきた彼らは、巨大なモアを見てどう思ったのだろう。最初は自分よりも大きな鳥に畏れを抱いたに違いない。しかし、攻撃的な生き物でないことがわかればそれは”森を歩く巨大なご馳走”となった。部族を十分に養える量の肉がたった一羽狩るだけで得られるのだから、優先してモアを狩ったのも無理はない。

今も全国に残るマオリ族の貝塚(Pa)から、おびただしい量のモアの骨が見つかっている。それは初期の貝塚に多く、徐々に少なくなり、1500年ごろにはぴったりと無くなってしまった。つまり、マオリ族が上陸した1300年ごろからわずか200年ほどの間に、すべてのモアは狩りつくされてしまったのだ。時を同じくして、モアを主な食料としていた唯一の天敵ハースト・イーグルも、このころに絶滅してしまったと考えられている。

ヨーロッパ人がニュージーランドを発見して入植してくるころには、もはやモアやハーストイーグルが跋扈する太古の森は、マオリの伝説上の話になってしまっていた。

モアはまだ生きているのか?

モアに・・遭遇!? by Reddit

 

1948年、ニュージーランドからちょっとしたニュースが世界を駆け巡った。19世紀に絶滅してしまったと思われていたクイナ科の飛べない鳥・タカへが“再発見”されたというのだ。これを機にタカへは絶滅の淵から這い上がり、2017年には300羽を超えるまでに回復した。

takahe @ tiritiri matangi island
takahe

 

ならば、モアはどうだろう?まだどこかに生きているのだろうか?
たとえば、南島の世界遺産「フィヨルドランド国立公園」ならまだまだ未開の森が広がっている(そしてここでタカへも発見された)。

実際に「モアをみた!」という目撃情報はたびたび報告されているし、ニュースになったりもする。でも500年間も巨大な生物がこっそり暮らしていたというのは少々難しい話かもしれない。目撃情報も、たいていはネッシーみたいな都市伝説の類だ。

モアがいないニュージーランドの森は、素晴らしい森である反面、どこか味気なさも感じてしまう。生態系のトップが軒並みいなくなってしまった自然なのだからこれはどうしようもないのだろう。僕らができるのは、ニュージーランドの自然を楽しむだけでなく、これ以上“住人たち”がいなくなってしまわないように努力をしていくことだけなのだと思う。

参考資料:
Wikipedia – MOA
Bird Online – Giant Moa
The Encyclopedia of New Zealand – Moa

「あるとき、砂の上にうずくまって日光浴をしている大きな鳥を見つけたの。その鳥は立ち上がると私の背丈を超えるほどの大きさで、恐ろしくなって無我夢中で逃げたわ――」「――ずっとずっと、その鳥は”タカへ”(NZに現存する別の鳥)だと思ってた。でも・・」・・・そんなお話から始まる、古いラジオ局のインタビュー音源がある。インタビューを受ける彼女の名は、アリス・マッケンジー。時はニュージーランドという国が産声を上げ始めたばかりの19世紀末。NZ南島の原生林に暮らした彼女は、子どものころに見たこともない大きな鳥に出く...

飛べない鳥が多く生息することで知られるニュージーランド。その中でも奇跡のような復活を遂げた鳥がいる。クイナ科で…

Last Updated on 2022年9月22日 by 外山みのる

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