植物を見ていて、常々面白いなぁと思うことがある。それは、彼ら植物たちが発達させた、タネの拡散方法だ。
「置かれた場所で咲きなさい」とは誰の言葉だったか。植物は動けない代わりに、それぞれの環境に合わせて、子孫を残すために独自のタネの拡散方法を身に着けている。ニュージーランドにも面白い植物がたくさんあるので、今日は「タネを遠くに運ぶための植物の工夫」に焦点を当てて書いてみよう。
クイズ形式で書いてみるので、「もし自分だったらどうタネを飛ばすかなぁ?」なんて考えながら読んでみよう。
Quiz1:あなたは「森の中の大木」。どうやってタネを遠くに運ぶ?
例えばあなたが「森の中に生えたたくさんの木のうちの一本」だったら、どうやって自分のタネを遠くに運べばいいだろう?
ジャングルみたいに、周囲の木々は同じ高さで密接に生えていて、枝葉を茂らせているような環境だったら・・。強風も吹かないし、タネを流してくれる海や川などの水の流れもない。
こんな環境で植物たちが頼りにするのは・・そう、そこに暮らす生きものたちだ。
生きものたちにタネを食べてもらって、糞として遠くまで運んでもらえばいい。
なーんだ、そんなことか、と思うかもしれないけれど、この戦略は恐竜時代から、いやあるいはもっと古くから発達させてきた、植物たちが最も頼りにする拡散方法と言っていい。
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たとえば、ニュージーランドには「カヒカテア」というマキ科の高木がある。
彼らは1億6千万年前という恐竜たちの時代から地球に生きていたとされる“ダイナソー・ツリー”だ。面白いことに、彼らは現代の多くの木々と同じようにフルーツをこしらえ、その先にタネを付ける形で拡散を狙うよう進化していた。でも、哺乳類も鳥類もいない時代に、だれがカヒカテアの実を食べたのだろう?
その答えは、「飛ぶタイプの恐竜だっただろう(ex, Pterodactyls)」、と言われている。恐竜が絶滅したのちは鳥類がその役割を引きつぎ、現にNZの飛べない鳥であるカカポは、このカヒカテアのフルーツをアテにして繁殖をするくらいだ。
Quiz2:あなたは草原に生える背の低い草花。どうやってタネを遠くに運ぶ?
例えば、あなたが「草原や高原地帯の地面に生える一本の草花」だったとしたら、どうやってタネを遠くに運ぶだろう?
ジャングルほど木々は密集していないけど、その分土地がだだっ広く、フルーツをつくるほどたくさんの栄養分もない・・。
そんな環境で植物たちが取る戦略は、「風任せ」だ。
タンポポのタネを思ってもらえると分かりやすいはず。フルーツは作らず、逆にとにかく軽量化一本でタネをつけ、強風に乗せて遠くに運ぶのだ。
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僕が今まで見てきた植物で面白かったのは、日本の高山植物・チングルマ。
栄養分の乏しい高山地帯に生え、夏には真っ白で可憐な花を咲かせてくれる。でも、チングルマの見ごろは夏ではなくて秋だった。彼らは秋になると不釣り合いなほど大きな“綿毛”をこしらえて、吹き降ろす風にタネをゆだねる。限られた資源でやりくりした、なんて見事な戦略!南アルプスの3000m級の山でこの綿毛の大群落を見かけた時は、僕は本当に感動したものだった。
Quiz3:あなたは森の縁に生えた背の低いかん木。どうやってタネを遠くに運ぶ?
では、クイズ1と同じく森の木だけれど、今度は高木ではなくて低木、それも1~2mくらいにしか育たない、葉っぱが茂りに茂った“かん木”と呼ばれる木だったら、どうやってタネを運べばいいだろう?
「クイズ1と同じように、フルーツをつくって食べてもらえばいいんじゃない?」
と思うかもしれないけれど、背丈が低い場合はフルーツをつくるよりも、もっと効率的な方法がある。
森のかん木たちが編み出したタネを運ぶ戦略、それは「生きものにくっつけて運ぶ」!ことだ。
茂みの中を進んでくれる生きものがいるなら、その毛皮にくっついて運んでもらうのが、何よりも省エネで効率がいい。
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ニュージーランドには、この戦略を取ったニュージーランドの面白い植物がある。
その名も、バード・キャッチング・ツリー。
現地語でParaparaと呼ばれる、海岸沿いに生える植物なのだが、その実はまるでノリかボンドのようにネバネバしていて、通りすがりの海鳥の羽に簡単にくっつくことができるように進化している。そのボンドの強さは、小さな小鳥が誤って触れてしまうとネバネバで体を動かせず、そのまま死んでしまうと言われるほど。だからバード・キャッチング・ツリーなんて不思議な名前が付いてしまったのだけど・・、これも低木が苦心して生み出した、タネを運ぶための戦略なのだ。
Quiz4:あなたは海岸の砂浜のイネ科の植物。どうやってタネを遠くに運ぶ?
さて、最後のクイズ。
所変わって、例えばあなたが「海岸の砂浜に生える植物」だったら、どうやってタネを遠くに運ぶだろう?
砂浜はご想像の通り、養分は少ないし、タネを運んでくれそうな動物の数も少ない。でも、当然、風だけはたくさんある。
「風があるなら、クイズ2と同じように風にタネを乗せちゃえばいいんじゃない?」
と思うところだけど・・、砂浜に生きる植物だから、砂浜以外に着地してしまうとタネはうまく育たない。だから、「風に乗せて飛ばす」以外の方法で、うまく風を利用しなくてはいけない・・さて、どう風を使おう?
砂浜の植物たちが取った戦略、それは、「風の力で転がる」(!)ことだ。
サッカーボールのようにコロコロと転がれば、風に飛ばされて変なところに不時着することなく、砂浜限定でタネを拡散することができるというわけだ。
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実は、今日この記事で書きたかったのはこの植物だったのだけど、書き出したらけっこう長い記事になってしまった(笑)。
ニュージーランドには、砂浜限定で育つ固有種「スピニフェックス(spinifex)」というイネ科の植物がある。
スピニフェックスは、見たものをあっと驚かせるタネの拡散方法を持っている。
彼らはちいさな花を咲かせた後、お米でいうもみ殻(?)のような種の殻の部分を10~20cmほど尖らせてそれらを束ね、まるでサッカーボールのように丸くなって親株から離れるのだ。(写真参照)。イメージとしてはタンポポの綿毛が、茎の先から丸ごとポロっと折れたような感じだ。
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NZ・オークランドの観光地、ピハビーチやカレカレビーチに夏ごろに行くと、コロコロと転がるスピニフェックスのボール状のタネを見ることができる。海岸に生きる植物が編み出した、素晴らしい移動方法ではないだろうか。
こうやって一つ一つの植物の境遇とそのタネの拡散方法を考えてみると、それぞれ最適な方法を見つけて進化させていることが分かる。「この植物はどうやってタネを遠くに飛ばそうとしてるのかな?」なんて考えながら、森や海辺を歩いてみるのもきっと面白いんじゃないだろうか。
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Last Updated on 2022年9月25日 by 外山みのる
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