クマのような大型動物も、マムシのような毒蛇もいない平和な自然を持つニュージーランド。天敵のいない環境のおかげで多くの鳥はこの地にやってきて飛ぶことを止めてしまい、国鳥キーウィや飛べないオウム・カカポなど、”楽園”を象徴する生き物が多くでた。
しかし、残念ながらまったく安心できるわけでもない。
特に植物に関しては「鳥に食べられまい」と、いくつかが毒を持つよう進化しているからだ。死亡例すらある、そんなニュージーランドの猛毒植物2種類をご紹介しよう。
ニュージーランドの猛毒植物1:イラクサ(オンガオンガ)

イラクサという植物は世界的に分布していて、葉や茎にトゲを持ち、毒性を持つことで知られている。日本にも、厳密には別属ながら、見た目は似ているミヤマイラクサがある。
そのイラクサのニュージーランド固有種、urtica feroxは、NZの自然において最も注意すべき毒草の一種だ。森の開けた場所に2mほどの高さにまで成長するニュージーランドのイラクサはその鋭いトゲに強い毒性を持ち、触れると鋭い痛み、じん麻疹、呼吸困難などを引き起こし、最悪の場合死に至る。

1961年のボクシングデーという祝日に、2人の若いニュージーランド人が森にハンティングにでかけ、不幸にもこのイラクサの茂みをやぶこぎしてしまった。一人は1時間もせず歩けなくなり、呼吸困難、視界不良のすえ、5時間後に死亡。もう一人も似たような症状を訴えたがこちらはなんとか回復したと記録にある。葉に触ってすぐに死ぬような猛毒ではないが、知らずに身体じゅうに触れると極めて危険な植物だ。
先住民族のマオリ族はこのイラクサを医療用植物として利用していた。幹の皮を煮込んで飲めば湿疹(eczema)や性病(venereal disease)に効いたとされる。まさに”毒をもって毒を制する”だ。
ニュージーランドの猛毒植物2:トゥトゥ(Tutu)

一見、ワイルドベリーのようなきれいな実をつけるツツ。しかし、このトゥトゥこそニュージーランドで最も危険な植物と言っていい。
NZ全土の、森の川べりや、森を切り開いた道沿いなどにごく普通に生えているトゥトゥ(Coriaria arborea)。秋にはワイルドベリーと呼びたくなるようなきれなブドウ似の房をつける。しかし、決してこの実を食べてはいけない。実だけでなく、タネや花粉に至るまでほとんどの部分に毒を持っていて、食べた人間の中枢神経をかく乱し、けいれん、呼吸困難、こん睡等を引き起こし、最悪の場合は死に至る。

大航海時代のキャプテン・クックが1773年にニュージーランドに初めて放した記念すべき2頭の羊が、わずか数日でこのトゥトゥを食べて死亡したとの記録を皮切りに、1957年にはサーカスの象さえ(!!)道端に生えたこの実を大量にたべて死亡したとの記録がある。
僕もオークランド近郊のハイキングでさんざんこのトゥトゥを見てきたが、最初の頃はまったくこの猛毒植物を知らず、「きれいなブドウだな、食べれるかな」とよく写真を撮っていた。今思えば、あの時口に入れなくて本当に良かったと思う。写真のように、見た目は本当に美味しそうなのだ。初期の入植者の子どもたちが誤って食べて死亡したとの文献もあるが、これは想像に難くない。きっと記録に残らない事故もたくさんあったことだろう。

残念ながら、イラクサもトゥトゥも、ニュージーランドの森では割と普通に見られる植物だ。とくに子供が過って食べないように、この2種類の毒性植物を頭に入れておいてほしい。
- 参考文献・ウェブサイト
TERRAIN:Tree Nettle
Ministry of Health:stinging nettles
The Encyclopedia of New Zealand::Poisonous plants and fungi
New Zealand Plants Conservation Network:TUTU
追記:オークランドでイラクサ発見!好奇心で触ってみると・・!
Last Updated on 2022年9月22日 by 外山みのる
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