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48時間の儚い命。NZ最大の蛾「プリリ・モス」を探しに、夜の森へ・・

夜の10時。僕はオークランド西に広がる原生林地帯、ワイタケレ・フォレストに向かっていた。
「アラタキ・ビジターセンター」という森の中の観光案内所に車を停めると、20mほど先にある駐車場の街灯の灯りを見つめた。この街灯に、僕が探している生き物がやってくるはずなのだ。すぐそばの木の上でモアポーク(NZアオバズク)が鳴いている。きっと彼らも、僕と同じ生き物を探しにやってきたのだろう。

小一時間ほど待っていると、ついに街灯の灯りにいくつかの影が飛び回るようになってきた。きた、来た!やっと見つけた!僕は座っていたベンチから勢いよく立ち上がった。きっとあれが、ニュージーランド最大と言われる蛾「プリリ・モス」に違いない。街灯に向かって歩いていると、僕と同じタイミングでモアポークが2羽飛び立ち、音もなくその影を2つ攫っていった。せっかく会えたのにこれ以上攫われても困る。街灯の下でボディガードをこなしつつ、僕はついにお目当ての「プリリモス」と遭遇を果たしたのだった。




ニュージーランド最大の蛾「プリリ・モス」

puriri moth by Flicker

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・・と、いつもと違う調子で書き出してみたけれど、これが僕の「プリリ・モス」との出会いだった。数年前にこの生き物の写真をみてからというもの、その美しい姿を一目見たいとずっと思っていた。ある情報筋から「オークランドのアラタキ・ビジターセンターの駐車場で見れるよ」と情報をいただき、その週の夜に時間をつくって車を走らせたのだった。

ニュージーランドの「プリリ・モス」。この国最大の蛾で、羽を広げた大きさは最大で15センチ。手のひら大の大きさもある、明るい緑を全身にまとった美しい生きものだ。彼らは5年ほどプリリという木の幹の中で幼虫時代をすごし、春から夏にかけて成虫となって夜空に舞い上がる。ただ、その美しさの代わりに、与えられた時間はわずか48時間。口もなく、花のミツを吸うこともない。ただただ夜空に異性を探し、交尾をして死に、そうしてまた、この種の新たな命のサイクルが始まる。なんて儚い生きものだろう。

美しく、大きい。でも、飛び方は覚束ない。不思議な生きもの、プリリ・モス

ワイタケレで出会ったプリリ・モス(オス)

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僕が街灯の下に見つけたのは、羽を広げた長さ10センチほどの、蛍光色の緑をまとったきれいなプリリモスのオスだった。
プリリモスはメスの方が大きいのだが(最大15センチ)、なぜかオスばかりが街灯に引き寄せられ、メスはめったに姿を見せないらしい。それにしても、体が大きすぎるのか、飛び始めたばかりなのか、街灯のオスたちは飛ぶのが下手で、みな地面に落ちたり草むらでジタバタしている。・・これを知ってるから、モアポークがご馳走とばかりにやって来るんだろう。
「48時間をもっと有効に利用してくれ・・!」なんて願うのは、人間の勝手な感情なんだろうか。美しく、大きい。蛾なのに飛び方さえ覚束ない。ニュージーランドのプリリ・モスは、ほんとうに不思議な生きものだ。

プリリモスは北島のみに生息。オークランドのワイタケレでも見られる。

ワイタケレで出会ったプリリ・モス2

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プリリモスはNZ固有種で、北島のみに生息している。これは幼虫が餌とする木「Puriri」が北島にしか分布していないからだ。プリリの木があれば基本的にプリリ・モスもいるはずなので、夜になれば木の周辺で見つかるかもしれない。僕が見に行ったオークランドの「アラタキ・ビジターセンター」は街灯が夜通しついてるので観察にはもってこいだが、たとえば森に近い家ならば玄関先などにも飛んでくるはずだ。

年間を通して成虫は見られるといわれるが、ピークシーズンは10~12月ごろで、もう一つの小ピークが3月にある。上述の通り、夜になると森にある街灯などに集まってくるが、たいていはオスが見られ、メスは見つけにくい。どうやってオスとメスが暗闇の中で互いを見つけるのかは、まだはっきりとは分かっていないようだ。

NZ固有の木Puriri

詳しくは以下のサイトなどを参考にしてほしい。
・TWRRAIN – Aenetus virescens (Puriri moth)
・Factsheet – Puriri Moth
・Wikipedia – Puriri Moth

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