太古のままの自然がのこるニュージーランド。
最高峰のマウント・クック(3,724メートル、富士山と同じくらい)をはじめとする3000メートル級の高山地帯から、世界遺産ミルフォード・サウンドのような苔むした原生林の深い森、果てはタソック草に埋め尽くされた大草原まで、さまざまな自然環境が広がっている。
そんなニュージーランドの大自然をトレッキングするときの楽しみと言えば、夏のシーズン中にいたるところで咲き乱れるユニークなお花たちだろう。ニュージーランドでしか見られないお花も多く、それを目当てにNZを訪れる愛好家もたくさんいる。
しかし、そんなニュージーランドの大自然の中を歩いていると、ふと、あるとき不思議なことに気づくだろう。それは、
「どのお花も、真っ白!」
だということ。これには何か理由があるんだろうか?
今日はニュージーランドのお花の色から、自然のヒミツを紐解いてみよう。
ニュージーランドのお花はどれも真っ白!
たとえばNZで最も有名な”高嶺の花”、マウント・クック・リリー。
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まとまって花がさく姿が美しいレンガレンガ・リリー。
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北島北部の森によく見かけるレースバークも、
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そして”ツリー・デイジー”と呼ばれるオレアリアの花も・・
こうしてみると、ニュージーランドのお花たちは、ほんとに見事なほど真っ白だ。
これほどニュージーランドの花たちが真っ白で統一されているとなると、これはもやは偶然の産物ではなさそう・・きっと何か理由があるはずだ。いったいどうして、ニュージーランドの植物は白い花をつけるのだろうか?
そこにはニュージーランドにしかない、面白い理由があったのだ。
花粉を運ぶのはダレ? 花の色には理由がある!
赤、紫、黄、オレンジ・・お花の色は様々あるが、植物たちは何も好き勝手に色を選んでいるわけではなく、そこにはちゃんと理由がある。
植物がお花の色を決める際のイチバンの理由として、「花粉を運んでくれる相手へのシグナル」というのがある。
例えばハイビスカスは遠くに咲いていても目立つのは、だれもが納得するところだろう。赤色の花は日光の下ではとても目立つ。これは鳥に視認してもらうためだ。もし植物が「鳥に花粉を運んでほしい」と思えば、進化の中で自然と赤や黄色の花になっていく。自然はそういう風にうまくできているのだ。
では、「白い花」はどうだろう?
もしニュージーランドの花たちが「鳥や蝶に花粉を運んでほしい」と考えたら、白じゃなくてもっと色とりどりの花があっていいはず。しかしそうではないということは、鳥や蝶以外の「誰か」に花粉をお願いしようとしている、ということになる。
さて、その「誰か」って・・!?
NZの蝶ちょはわずか26種類。でも〇〇は1800種類!!
面白いことに、ニュージーランドに蝶はわずかに26種類しかいない(この数字は亜種の取り扱いで多少前後するが)。国土の形が似たような日本では約240種類だから、ニュージーランドの蝶の種類がいかに少ないかが分かるだろう。
鳥にしても、ニュージーランドにはたとえばハチドリのような蜜を吸う鳥が本来はほとんどいない。ついでに花粉を運んでくれそうな4つ足の哺乳類はいないし、大型のハチもいない。太古の生態系のままなのだ。
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他の国では花粉を運ぶ代表選手である蝶もいないし、鳥もいない、哺乳類に至っては1種類もいない・・では、誰を頼れば・・
そこでニュージーランドの花たちが最後に頼った生き物がいる。それはなんと、
「蛾」である。
ニュージーランドに生息する蛾の種類はけた違い。その数なんと1800種類以上にものぼる。鳥も蝶も頼れないニュージーランドの花たちが、蛾に花粉の運搬をお願いするようになったのも必然だったというわけだ。
では、蛾にとって目立つ色って何色だろう・・って、もうお分かりのはず!
そう、その色とは・・
花の白は「夜に目立つため」
一般的に蛾が活発に動くのは夕方から夜にかけて、つまり陽が沈んでから。そんな蛾に花の位置をわかってもらうには、日光下で目立つ赤や黄色ではなく、月光を反射して暗闇でも目立つ「白」にするのが一番。
そのため、ニュージーランドの花たちはどれも白ばかりだったのだ。
花の色一つとっても、こうして調べてみるとそれぞれに理由があって面白い。NZの花の「白」は、独自の生態系の中で考えた末に編み出された、独自の工夫の産物だったのだ。
NZに限らず、今度お花を見かけたら、「このお花は誰に花粉を運んでもらいたくてこの色なんだろうなぁ」と考えてみると面白い発見があるかもしれない。きっとそのお花も、それぞれの環境に合わせた進化を遂げているはずだから。
追記:例外的にNZクリスマスツリーとも呼ばれるポフツカワは真っ赤な花だが、こちらはツイなどのNZに数種類だけいるミツスイ科の鳥たちをお目当てにしているようだ。ただし、やはりNZでは「色つきの花」は全体でみれば例外的な存在だと言っていい。
Last Updated on 2022年9月21日 by 外山みのる
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