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オスとメスでまったく違うクチバシを持つ鳥「フイア」。彼らが絶滅に追い込まれた理由とは・・

オスとメスでまったく違うクチバシを持つ鳥「フイア」。彼らが絶滅に追い込まれた理由とは・・

いつもは美しくて素晴らしいニュージーランドの自然を紹介する当HPだけど、今日だけはちょっと”負の側面”、つまりすでにいなくなってしまった鳥たちの話をしてみたいと思う。

たった100年ほど前まで、ニュージーランドの北島の森には、世界でも例のない、オスとメスでクチバシの形がまったく違う、変わった鳥がいた。その鳥の名前は、フイア(Huia)。太古のNZの森を生きてきた彼らは、どうしていなくなってしまったのだろう?フイアの一風変わった生態も紹介しつつ、彼らがたどったあまりに急な下り坂を追ってみよう。




NZの絶滅鳥・フイア。それは夫婦でないと生きられない変わった生きもの

ニュージーランドにヨーロッパ人が入ってくるまで、NZ北島に広く生息していたNZ固有の鳥「Huia」。和名では「ホオダレムクドリ」と呼ばれ、その名の通りほっぺにオレンジ色のホオダレが付いていた。大きさは日本でよく見るカラスと同じくらい(割と大きい!)、羽は退化しつつあってあまり飛べず、主に森の低い枝を飛び移るようにして暮らしていたという。

フイア。 photo by ikoiko

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フイアの最大の特徴は何と言っても、オスとメスのクチバシが、まるで別の鳥かと見間違うほど異なることだろう。オスのそれは短くペンチのようで、メスのそれは細長く、エレガントに下に湾曲している。これは世界でもほかに類をみない、フイア独自の進化によって獲得されたものだ。つまり、彼らはオスメス共同で餌を取る。まずオスがペンチのようなクチバシを使って腐った倒木等をこじ開けると、メスはその長細いクチバシを使って木の奥にいるイモムシなどの餌を引っ張りあげる。こうすることで、より確実にエサを取り、生存するチャンスを増やしていたのだと考えられている。

ちょっと可笑しいのは、オスからメスへのイモムシ君のプレゼントはよく観察されていたが、その逆、メスからオスへの餌のプレゼントはただの一度も確認されていなかったこと(笑)。そこは進化的にも譲れなかったのだろうか?? 天敵のいない、太古のニュージーランドだからこそ成立した、どこか遊びのある進化のようにも思える。

マオリ族にとって、フイアの羽は権威の象徴だった

フイアの羽は特徴的だ。全体的に真っ黒だけど、尾羽の先だけ真っ白になっている。
この珍しい羽は、北島に生きるマオリ族に大変に重宝された。部族長とその家族以外は身に着けることは許されず、つまりフイアの羽はマオリ族の権威の象徴だったのだ。

フイアの飾り羽をつけるマオリ族の肖像画。部族のチーフやその家族にしかフイアの羽飾りは認められなかった。  オークランド博物館にて

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それだけに交易品としても大変に価値のあるものだったようで、北島のフイアの羽がなぜか南島のオタゴ地方(ダニーデン周辺の地域)で見つかっているし、フイアの羽を海辺の部族の持つサメの歯と交換したとみられる記録も残っている。

フイアに迫った下り坂。殺到するコレクター、放牧地の拡大、捕食者

フイアは現代のNZでもお土産やアート作品のデザインに使われている 筆者撮影

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フイアの最後の目撃情報は20世紀が始まったばかりの1907年のことだった。最大で10万羽近くいたとされるフイアは、20世紀までのわずか数百年間でただの1羽もいなくなってしまった。原因は主に3点。それらはあまりにもむなしく、そしてあまりにも典型的だ。

世界にまたとない、雌雄でくちばしの異なる鳥・フイア。その実物を初めて見たコレクターは「これは売れる!」と卑屈な笑みを浮かべたに違いない。実際、この鳥のはく製は世界中の博物館や珍品コレクターの羨望の的となっていく。1883年には白人への売却を目的に、マオリ族の男たちがわずか一ヶ月の間に646羽のフイアを捕えたという記録も残る。多くの白人コレクターに加え、フイアを神聖視し守るべき立場にいた先住民族さえその羽をお金に変えようと目の色を変えた――飛ぶのが苦手なフイアにとって、これはひとたまりもなかっただろう。

そして最大の原因は白人による牧草地の開拓。8割が森に覆われていた太古のNZも、白人の移入後はかろうじて3割ほどが森に覆われるのみとなり、さらに原生林に限れば2割にも満たなくなった。開拓に追い打ちをかけるように、人間が連れてきた外来の哺乳類、イタチや大型のネズミ、ポッサムや野ネコも、飛ぶのが苦手なフイアをこぞって捕食した。

森を奪われ、ヒトに追われ、外来種に食べられる――― 人間の入植以降、多くの鳥が絶滅してしまったニュージーランドにおいてさえ、フイアほど人間の影響をまともに受けた種もいなかっただろう。

1950年ごろに録音された、もの悲しいフイアの鳴き声..?!

実はこの記事を書こうと思ったのは、Radio NZというニュースサイトが「フイアの鳴き声」の音源を公開していたからだ。その音源は1949年に録音されたもの。フイアが絶滅したとされた1907年から50年近くも経って録音されたそれは、もちろんフイアそのものの声ではない。19世紀の当時を知るマオリ族の男Henare Hamanaが、若き頃に聞き覚えたフイアの鳴き声をそっくり真似た声だ。

もの悲しい、フルートのようなその”鳴き声”を聞いていると、僕はなんだか涙が出そうになってくる。
この鳴き声はすでに永遠に失われてしまっている。
僕らにできる唯一のことは、かろうじてNZの森に生き残ったフイアの近縁種、同じホオダレムクドリ科の「ハシブトホオダレムクドリ kokako」「セアカホオダレムクドリ saddleback」たちを、一生懸命守っていくことだけなんだろう。

参考:
Radio NZ – The call of the Huia, remembered 
national geographic – Huia the sacred bird
NZ birds online – Huia
Mongabay.com – New Zealand (forest deforestation)

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Last Updated on 2022年9月26日 by 外山みのる

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