NATUREニュージーランド

ちょっとだけNZの自然に詳しくなれるネイチャーマガジン

世界に残った、たった5羽のブラック・ロビン。一種の鳥を絶滅から救った「オールドブルー」の物語

世界に残った、たった5羽のブラック・ロビン。一種の鳥を絶滅から救った「オールドブルー」の物語

ニュージーランドの自然保全を語ろうと思ったら、どうしても外すことのできない一羽の小さな鳥の物語がある。
そのお話の主人公の名は『オールドブルー』。たった5羽だけ残された種「ブラックロビン」の、最後の母と呼ばれた鳥の物語だ。

1980年、絶滅の縁にあったブラックロビンは、たった一羽の繁殖できるメス=「オールドブルー」のおかげで絶滅をまぬがれ、奇跡とも呼べる復活を果たした。この成功はその後のNZの自然保全活動に大きな影響を与え、数十年たった今でも、NZの熱心なナチュラリストの間では語り草となっているほどだ。

どうしてわずか残り5羽という絶滅の縁から、ブラックロビンは復活できたのだろう?
なぜ、オールドブルーは21世紀のNZでも語り継がれているのだろう?
1980年代、NZ本島から遠く離れたチャタム島で起こった、自然保全の奇跡のサクセス・ストーリーを追ってみよう。




NZ全土を襲った絶滅の波が、遠く離島にも・・1970年代、残り18羽に。

話の舞台は、NZ本島から東に遠く離れた「チャタム島 Chatham Island」という島だ。

太古の昔からほかの大陸と切り離されていたおかげで、世界でもここだけに生息する動物や植物が多く進化してきたニュージーランド。そのNZの本島からさえ隔絶されたチャタム島の生き物たちは、NZ本島の動植物と姿形は似ていながらもそれぞれ違った特徴を有し、名前の頭に「chatham island~」とつくような、独自の進化を遂げていた。

この物語の主人公、Chatham island black robinもまた、NZ本島に生息する灰色の羽をもつロビンとは異なり、全身真っ黒の珍しい羽を持つに至っている。真っ黒になった理由は定かではないが、一説には外敵がまったくいないため配色にこだわる必要がなかったからだとか、地面付近で活動することが多かったため黒色が都合がよかったなどと説明されるが、つまりチャタム島という隔絶された環境に適応した結果、まったく別の種になっていったのだろう。

しかし、平和な環境も長くは続かなかった。NZ本島から約800キロも離れたチャタム諸島に外敵が入り込んだのは、おそらく18世紀の後半ごろだっただろう。そのころ、イタチや野良猫、大型のネズミと言った外来の哺乳類たちは、すでにNZ全土で猛威をふるっていた。逃げ方を知らない鳥たちの多くは絶滅し、外敵はいよいよ離島にまで侵入してきたのだ。

チャタム島とその離島
チャタム島とその離島 by The Travel Warehouse.

.

20世紀後半になって、事態を重く見た政府機関ワイルドライフ・サービス(環境保全省の前身)はようやく調査に乗り出した。この島だけに生息するNZ固有種「チャタムアイランド・ブラック・ロビン」はしかし、この時点ですでに18羽しか確認できなかった。外敵の侵入をまともに受けて、すでにチャタム諸島の最も大きな島では絶滅し、さらに離島の小さな島に、かろうじて生き残るだけになっていたのだ。

1980年、残り5羽。残った母親はわずか1羽の「オールドブルー」・・

chatham island black robin by Radio NZ

.

毎年のように数を減らしていくブラック・ロビン。
残り7羽になった時点で、すべてのブラックロビンは捕獲され、チャタム諸島内の別の(もう少しだけ大きな)島に移されることになった。でも、新たな環境も助けにはならなかった。1980年に残ったブラックロビンは、世界にたったの5羽となってしまう。しかも、ちゃんと繁殖できるメスは一羽のみ。―――絶滅への扉が、いよいよ開こうとしていた。

ブラックロビンの最後の母は、足輪の色から「オールドブルー」と名付けられる。一縷の望みを託して、NZの自然保全史に残る保護活動が始まった。

嵐が呼んだ奇跡、托卵という新たな光

Black Robin
Black Robin   by alexandrawilsonblackrobin.blogspot.com

.

後にブラックロビンの繁殖プログラムリーダーとしてその名を知られることになるワイルドライフサービス職員・ドン・マートンは、年々減っていくブラックロビンをどうすれば救えるのか、答えを見つけられずにいた。その年も、健気にオールドブルーは巣をこしらえ、卵を産んでくれている。でも・・

「オールドブルーはヒナを毎年育ててくれる。でも、年に一羽増えても、自然に(老死などで)死んでいってしまう数の方が多いのが問題なのだ・・。」このままでは、じり貧なのは明らかだった。

そんなドン・マートンとブラックロビンを救ったのは、皮肉なことに島を襲った「嵐」だった。
島を襲った大型の嵐が、オールドブルーの巣と卵をダメにしてしまったのだ。ところが、それを見たオールドブルーは、すぐに別の巣をつくって新たに営巣をしようとするではないか。「これだ!!」とドンは思った。産んだ卵をすぐに別の鳥の巣に移せば、きっと彼女は新たな卵を産んでくれる。ヒナは他の鳥に育ててもらえばいいはずだ。そうすれば、倍の速さで数を増やせる!!

つまり、ここに「托卵」の試みが始まった。まず、同じ島に生息するグレイ・ウォーブラという小鳥の巣に、オールドブルーの生んだ卵を預けてみる。これは一応の成功を見た。ヒナは孵り、親鳥がせっせと餌を運ぶ光景が見られるようになったのだ。

ニュージーランド・ヒタキへの托卵で、ついに繁殖に成功!

ブラックロビンの托卵先に選ばれた、tomtit。
ブラックロビンの托卵先に選ばれた、tomtit。

.

しかし、10日ほどで、貴重なオールドブルーのヒナは托卵先の巣で死んでしまった。どうやら、ブラックロビンよりも一回り小さいグレイウォーブラでは、十分な餌を与えることができなったようだ。

それでもドンは諦めなかった。
「托卵自体は素晴らしいアイデアだ。きっと托卵先の鳥が小さ過ぎたに違いない・・。」

こうして、今度は背丈が同じくらいのトムティット(Tomtit = ニュージーランドヒタキ)に托卵をしてみる。卵からは無事にヒナが孵った。さあ、問題の10日目。これも無事に通過し、ヒナは元気いっぱい・・そしてついに、ついに、成鳥となって巣立つことに成功したのだった。

わずか残り5羽、繁殖できるメスは1羽という崖っぷちに立たされたブラックロビンは、こうして絶滅の縁から這い上がり、悲しい歴史となることを免れることができた。ドンの考案した托卵作戦に応えてせっせと卵を産んでくれたオールドブルーは、ロビンとしては奇跡ともいえるほど長い14年間を生き、その間にたくさんの子どもたちを巣立たせてくれた。それはまるで、自分が最後の1羽だと知っていたかのような振る舞いだった。今現在も残るすべてのブラックロビンは、この1羽の母「オールドブルー」の子孫だ。現在は300羽以上がチャタム諸島に暮らし、ブラックロビンは今なお順調に数を増やしている。

ニュージーランドが体験したこの劇的な”成功体験”が、後世に与えた影響は計り知れない。
”外来種が定着してしまった以上、NZの貴重な鳥たちは私たちの手で守らなければならない”――多くのNZ人がそんな想いを共有し、いつしかNZはConservation(自然保全)の先進国とまで言われるようになっていった。

語り継がれるサクセス・ストーリー。オールドブルーを観てみよう

嬉しいことに、今回紹介したブラックロビンのサクセス・ストーリーは、テレビ番組として詳細に放送されたものが、番組の公式ページからアーカイブとして観ることができるようになっている。英語だけれど、解説は聞き取りやすいのでぜひ観てみよう。1980年代当時の映像や、ドンの姿も見ることができる。(下の動画をクリック!)



また、絵本(Old Blue)にもなっているので、もし興味があったら図書館などで借りてみよう。きっといい学びになるはずだ。

ニュージーランドの絵本「オールドブルー」
ニュージーランドの絵本「オールドブルー」

参考記事:
NZonScreen – The Black Robin
DOC – Chathan island black robin
stuff – Black Robin – Story of Hope

そのほか、NZの自然保全のストーリーはこちら!

飛べない鳥が多く生息することで知られるニュージーランド。その中でも奇跡のような復活を遂げた鳥がいる。クイナ科で…

 

Last Updated on 2022年9月25日 by 外山みのる

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

コメントはこちら

*

Return Top