生きものたちが思い思いに進化し、飛べない鳥・キーウィなど、ほかでは見られないユニークな生き物たちが多数誕生したニュージーランド。しかし、面白い進化を遂げたのは何も鳥や昆虫ばかりではない。そう、そこに生きる植物たちも、ずいぶんと面白い進化を遂げてきた。
なかでも、とりわけ奇妙な進化をしたのが『ランスウッド Lancewood』と呼ばれる植物だ。この木は、ある巨大な〇〇から逃れるために、形を変えて成長するとされている。今日はこの不思議な進化を遂げた植物・ランスウッドを紹介しよう。
槍のような葉を持つランスウッド
ニュージーランド全土に分布し、山地のトレッキングコース上などでよく見ることができるランスウッド(Lancewood, Pseudopanax crassifolius/ferox)。
若木は槍のように細くて鋭い葉をもち、曲げると「ポキッ」と鳴るくらい固い。葉の色も青々した緑とは程遠く、茶色っぽい色をしている。
この色カタチだけでも充分珍しいが、これが成長するにしたがってまったく別の木のように形が変わっていく。次項では成長したランスウッドを見てみよう。
まるで別の木!3mを越えたランスウッドは形を変える
まったく奇妙なことに、地上から3mほどの高さに育ったランスウッドは、突然葉っぱの形を変えてしまう。
まさに地上から突き出た槍のように育っていた葉はにわかに丸みを帯びて、上向きに枝分かれして緑の葉を茂らせるようになっていく。大人になったランスウッドは、もはや普通の木と言っていい。3メートルから上には、若木の頃の固い葉っぱは一切生えてこないからだ。
3メートルまではカチカチの葉でガードを固めるように一直線に上を目指し、そこからはゆっくり普通の葉っぱを茂らせるランスウッド。これじゃまるで、「3メートルくらいの巨大な何か」から逃れようしているようではないか!?
体長3mの“あの生物”から逃れるための進化だった!
現在のニュージーランドには3mもある生き物はいない。それどころか、哺乳類すら一切いない鳥の楽園だ。じゃぁ一体ランスウッドは何から逃れようとしていたのか。
ランスウッドが逃れようとしていた生き物、それは・・
NZという鳥の楽園が生んだ、世界最長の鳥『モア』だったのではないか、と言われている。
マオリ族の入植とともに1000~500年ほど前に絶滅してしまったものの、かつてのニュージーランドには世界最長の鳥だったと言われる飛べない鳥『モア Moa』がいた。ちょうど現代のダチョウのようなヤツだ。首をもたげるとその高さは3mを越えたとされるモアは、太古の昔には全部で13種類もいたとされている。
モアの旺盛な食欲から身を守るため、ランスウッドは低木の時はカチカチに身を固めて防御を優先し、3mを越えたら光合成を最優先に成長を続ける、という進化を遂げてきたというわけだ。
街中でも見かけるランスウッド
モアのいない森で今でも固い葉を伸ばすランスウッドを見ると少し不憫な気もするが、しかしかつての熾烈な生存競争を今に伝えてくれる、これ以上ない貴重な生き証人と言っていい。
ランスウッドはその防御の固さからどんな土地でも生育できる特性があり、見た目も珍しいので、ニュージーランドでは園芸品種としてもよく利用されている。オークランドの街中や、民家の庭先でさえよく見かけることができるから、もし機会があれば探してみてほしい。
Last Updated on 2022年9月22日 by 外山みのる
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