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キーウィの生存率はたったの5%!?NZが外来種ゼロを目指す切実なワケ。

キーウィの生存率はたったの5%!?NZが外来種ゼロを目指す切実なワケ。

先日の記事「なぜニュージーランドは外来種を根絶しようとするのか?」ではいくつか書ききれないことがあったので続きを書いてみようと思う。

ニュージーランドは「2050年までに外来種を根絶する」と宣言をして世界を驚かせているが、こんなに強気な政策をぶち上げたのには当然ながら切実なワケがある。外来種の影響をもろに受けるのは飛べない鳥たちだ。特にキーウィは深刻で、赤ちゃんが成鳥になるまでの生存確率はわずか「5%」しかないといわれている。この数字が意味するものはいったいなんだろう?

今日は、ニュージーランドの自然が外来種から受けている被害の様子をお伝えしてみよう。

「2050年までにニュージーランドの外来哺乳類をゼロにします。」首都ウェリントンで、当時の首相ジョン・キーがそんな発表をしたのは2016年7月のことだった。ニュージーランド独自の生き物たちを守るために、問題となっている外来の哺乳類、たとえばポッサムやネズミなどを一匹残らず根絶しようという野心的な政策は、当時日本のニュースにもあがるなど世界中を驚かせた。でも、どうしてニュージーランドはそうまでして外来哺乳類を駆逐したいのだろうか?このページではこの外来種根絶の政策の詳細と、その背景に迫ってみたい。ニュー...




キーウィの生存確率はわずか5%。

NZの害獣:イタチ by New Zealand Geographic

 

外来の哺乳類(ネズミやポッサム、イタチなど)が人間によってニュージーランドにやってきたのは19世紀のこと。彼らは天敵がいないのをいいことにわずか200年足らずの間に瞬く間に全土に広がってしまった。これに困ったのは、本来、哺乳類のいない楽園に暮らしていた鳥や昆虫たちだ。突然現れた新たな天敵に対応できず、人間による狩りの圧力もあって、すでにNZの50%の鳥類は絶滅してしまった。(その多くは飛べない鳥だった。)

国鳥キーウィは現代でも細々と生き残っているが、こうした外来種のいる環境ではせっかく子どもが生まれても、10羽のうち9羽以上は12か月以内にイタチなどに食べられてしまうという調査結果が出ている。確率にすれば、キーウィの赤ちゃんが1年以上生存する可能性はたったの5%程度しかない・・。種を存続させるには20%は必要らしいから、このままでは絶滅まっしぐら。だからこそ、NZは政府主導で外来種駆除に本腰を挙げることになったのだ。

外来種駆除で、生存確率は60%に跳ね上がる

ポッサムによる被害 by Landcare Research

 

現在では主に「Pest Trap」と呼ばれる罠を森にいくつも仕掛けてネズミやイタチなどの外来種を駆除する方法が採られているが、これは人件費や時間こそかかるものの上手くいっているようだ。外来種の数がゼロに近い森であれば、わずか5%しかない生存確率も一気に60%ほどになると言われている。

そもそも、キーウィの死亡原因の60%はイタチによる捕食とされ、またポッサムが葉を食べつくして森を枯らすことで地面が固くなり、キーウィが餌をとりにくくなることが減少の主な原因とされてきた。それだけに、このやっかいな2種類、イタチとポッサムが駆除されるだけでも、キーウィの数は回復することができるはずだ。

3000万匹のポッサムは週に3本分のスカイツリーを平らげる

ポッサム駆除前と駆除後の森 by 1080: The facts

 

キーウィ現象の直接の原因はイタチによるものだけど、ニュージーランドでもっとも「やっかいもの」扱いされているのは間違いなくポッサムだ。毛皮獲得のためにオーストラリアから連れてこられたポッサムは、温暖なNZに適応してあっという間に羊よりも人間よりも数を増やして3,000万匹ともいわれる数にまで激増してしまった。

ポッサムの食欲はあまりにも凄まじい。政府が立ち上げた外来種駆除の専門会社「プレデターフリー・ニュージーランド」HPによると、この3000万匹のポッサムが一晩で食べる葉の量はなんと2万1千トンにのぼるという。ちょっと妙なたとえだけど、東京スカイツリーの重さは4万トンらしいから、ポッサムは一週間にスカイツリー3本以上の量の葉っぱを食べつくしているということになる。(余計ややこしい!?)

外来種駆除はNZ国民の願い

ニュージーランド人は環境保全に熱心だ。小さいころから環境教育がしっかり施されているおかげで、また自然が身近にあるおかげで、国民は環境の変化にはとても敏感。憂うだけでなく、実際にボランティアなどで行動に移すことも当たり前のようにこなすのだから、本当に自然に関しては関心が高い。

NZには陸生の哺乳類もいないのでとりわけ「鳥」を大切にしていて、「自分の住む地域に再びキーウィを取り戻したい」という願いはNZ国民共通の願いのようにも思える。

ニュージーランド政府が「2050年までに外来種をゼロに!」と掲げたのはそういった国民の願いをすくい上げたことも無関係ではないのだろう。まだまだ技術革新が必要とはいえ、国を挙げての「外来種ゼロ」が達成されることを願うばかりだ。

参考URL:
DOC – Predator Free 2050
Predator Free NZ – Possum Facts

Last Updated on 2022年9月24日 by 外山みのる

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