先日、コロマンデル半島にある「ピナクルズ(759m)」に登ったときのこと。
霧が立ち込め小雨が降る中、川岸の森で昼食を取っていると、突然、隣でおとなしく食事をしていた妻がびっくりするほどの悲鳴を上げた。指さす方向を恐る恐る見てみると、・・
なんとそこには、見たこともない大きさのムカデが!
僕も思わず声を上げたが、それは悲鳴ではなく”嬉しい悲鳴”の方だった。なぜって、噂に聞くNZの巨大ムカデに、僕は一度でいいから会ってみたかったからだ。この生き物は実は生物進化の体現者と言われている。今日の記事はちょっとおっかなびっくりな写真も多いが、この巨大ムカデからNZの進化を考えてみよう。
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ニュージーランドで出会った巨大ムカデ
ニュージーランド北島にあるコロマンデル半島。
コロマンデルはビーチのイメージが強い観光地だけど、実は「コロマンデル・フォレスト・パーク」という大きな森林保護区が中央にドンと構えていて、1000m弱の山脈が走る山々にはこれでもかとトレッキングコースが張り巡らされている。
そのうち、もっとも有名なのは「Pinnacles ピナクルズ」という山だ。ここにはかなり設備のいい山小屋もあり、夏の週末は予約がとりにくいほど人気がある。
僕が山小屋一泊の予定で登ったときはあいにくの天気だったが、雨と曇と晴れ間が時折やってくる天気は生き物には嬉しいようで、鳥や昆虫などにはいつも以上に出会うことができた。ムカデの前に、まずは目に優しい生き物から順に紹介してみよう(笑)。
雨の合間に飛び交っていたヒタキ科の鳥「トムティット Tomtit」。
トタラという木に紛れて交尾をしていた「ナナフシ Stick insect」。
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ムカデに出会ったのは、帰りのコース上、川沿いの空き地で簡単なランチを取っていた時だった。
小雨に打たれながら静かにパンをかじっていたときだ。隣に座っていた妻が突然、
「うわあぁあ!な・・・何アレ!!?」
と平らな地面を指さして叫ぶので、あやうく持っていたパンを落っことしそうになった。
指の先を追ってみると、2mくらい離れたところに何かがいる。いや、一目で分かった。あんな図体をした生き物はアレしかいない・・でも・・、見たこともないくらいデカいやつだ!
これはかなりデカい・・足を横に置いてとってみる。ほぼ、靴と同じサイズもある。
止まってくれたので、恐る恐る手を定規代わりに撮ってみる・・。20cm近くはありそうだ。
後ずさりする妻をしり目に、僕はちょっとうれしくなって何度もシャッターを切った。実は、僕はこの巨大ムカデを一目見てみたいと、ずっと思っていたのだ。
NZのムカデはなぜ巨大になったのか?
ニュージーランドの巨大ムカデ、その名も「ジャイアント・センティピード Giant Centipede」は、最大で25cmほどにも成長する節足動物。見た目のわりに毒性はなく、危害が加えられそうになった場合は防衛のために噛むものの、案外かわいい性格らしい。
それにしても、NZのムカデはなぜこんなにも巨大になったんだろう?
実はこの疑問は、ニュージーランドの生物たちがたどった進化そのものに繋がっていく。
ニュージーランドにはもともとネズミやイタチなど、あらゆる哺乳類がいなかった。いい変えれば、小さな生き物――たとえば昆虫や鳥など――にとっては外敵の少ない島だったといっていい。
外敵のいない環境に置かれると、生物というのは「巨大化」に進化のコマを進める、と言われている。
その点、ニュージーランドはさながら進化の実験場だった。人類が侵略するまでまったく哺乳類がいなかったため、鳥類には世界最大級の大きさを誇った鳥「モア Moa」が生まれ(すでに絶滅)、昆虫界にも世界最重量の70gを超える「ジャイアント・ウェタ Ginat Weta」が出た(こちらは現存)。
ムカデも例にもれず巨大化の方向に進化して、この巨大ムカデ(Giant Centipede)が生まれたのだ。
彼らは大きくなることで生態系の中で優位に立ち、他の大陸で小型哺乳類が閉めているポジションを獲得していった。大きな体を使って獲物をしとめる巨大ムカデは、いわばネズミやリスのような役割をニュージーランドで演じていたのだ。巨大なムカデは、NZの進化論の最先端を現役で走る奇跡のような生き物でもあるわけだ。
僕らがムカデを観察していると、別のグループがやってきたので「デカいムカデがいるよ」と教えてあげた。
「wooooww!!」「amazing!!」を連発する若者グループにムカデを”引き継いで”、僕らは満足して下山を再開したのだった。
Last Updated on 2022年9月24日 by 外山みのる
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