NATUREニュージーランド

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ニュージーランドの飛べない鳥たちは、なぜ激減してしまったのか?

ニュージーランドの飛べない鳥たちは、なぜ激減してしまったのか?

鳥の楽園として知られるニュージーランド。
はるか昔からほかの大陸と離れていたため哺乳類が存在せず(コウモリをのぞく)、進化の実験場のような孤島で生き物たちは様々な進化を遂げてきた。

ニュージーランドの進化で特に注目すべきは、なんと言っても鳥たちの「翼の退化」だろう。
外敵がおらず、餌が豊富にあるため、飛ぶことをやめた鳥たちが多く出たことは世界的に知られている。今でも国鳥として知られるキーウィや、カカポ、タカへと言った様々な「飛べない鳥」たちを見ることができる。

さて、しかしながら、ここ数百年の間に、そんなニュージーランド固有の鳥たちのうち実に50種類以上がすでに絶滅してしまっていることは、あまり知られていない。生き残った鳥たちも、その40%以上が絶滅危惧種となっており、数字だけで見れば「鳥の楽園・ニュージーランド」は危機的な状況にあると言っていい。

飛べない鳥たちの楽園に一体何があったんだろうか?このページでは、ニュージーランドの鳥たちが絶滅や激減に追いやられた原因を分かりやすく解説してみよう。




哺乳類の一切いなかった国・ニュージーランド

太古のニュージーランドは鳥の楽園だった
太古のニュージーランドは鳥の楽園だった

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最初に触れた通り、ニュージーランドはその独特な島の成り立ちによって哺乳類がまったく存在せず、生態系のトップが鳥という世界でも類のない環境だった。唯一、コウモリだけはニュージーランド原産の哺乳類だったが、このコウモリでさえニュージーランドでは「飛ばずに歩いていた」という(!)。他の大陸では鳥を食べる側にいるはずの哺乳類がおらず、鳥にとってニュージーランドは「天敵のいない島」だったわけだ。

そんなニュージーランドに適応した飛べない鳥たちは、現在でも、国鳥キーウィ(5種類)をはじめ、カカポ、タカへ、ウェカ、そして数種類のペンギンなど、10種類以上も確認されている。

しかし、実はかつてのニュージーランドには、現在の倍以上もの飛べない鳥たちがいたらしい。だがここ1,000年の間に、そのほとんどが絶滅、または絶滅の危機に瀕してしまった。その主な原因は、ニュージーランドが経験した2度にわたる「人間の到来」と、それによって引き起こされた「外敵の侵入」だった。

ニュージーランドには飛べない鳥が多く暮らしている。 国鳥にもなっているキーウィや、世界で唯一飛べない鳥としてテ…

マオリ族の移住と狩猟

Tattooing, Maori style
約1000年ごろから星座を頼りに初めてニュージーランドにやってきたのはマオリ族だった。
遠くポリネシア系の国からやってきた彼らは森を開拓し、主要作物であるクマラと呼ばれるサツマイモを作った。しかし、土地の開発よりもインパクトがあったのは彼らの狩猟だ。

かつてのニュージーランドの森には、高さ3.6mにもなる、世界で最も背の高い飛べない鳥「モア」がいた。ダチョウのような見た目のモアは森に棲んでいたが、攻撃的ではないため、森に暮らすマオリ族にとってはとっておきのご馳走になっただろう。今も残るマオリ族の貝塚を調べると、最下層の土からはモアの骨がたくさん出土するが、年代が進むにつれてだんだん少なくなり、500年ほど前の貝塚からはまったく出土しなくなってしまう。つまり、たかが500年ほどの間に、モアは狩りつくされてしまったのだ。

ニュージーランドの生態系のトップにいたであろうモアは、その土地の気候に合わせて10種類近くに分かれて生息していたとされる。生態系のトップがすべて絶滅してしまっている国というのも、残念なことだけど、世界的にも珍しいと言っていい。

ニュージーランドの原生林は奥深い。苔が森の至る所にぶら下がり、まるで架空の生き物たちが暮らす幻想的な世界に入り込んでしまったような気さえする。僕はそんなNZの原始の森を歩いていると、いつもあることを思わずにはいられない。それは、「この国にまだモアがいたら、どんなにおもしろい森になるだろう」ということだ。高さ3.6m、体重は250kg。高さだけで見れば史上最大の鳥とされたニュージーランドの飛べない鳥『モア』。そんな恐竜のような生き物がわずか500年前までこの国のこの森にいたのだ。どうしてモアは絶滅してしまっ...

ヨーロッパ人によるNZの”イギリス化”と、外来種の侵入

NZのヒツジのいる牧草地帯の風景は、開発の歴史でもあった
NZのヒツジのいる牧草地帯の風景は、開発の歴史でもあった

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18世紀ごろから始まったヨーロッパ人の移住は、もとの住人である鳥たちにとってはさらなる災害の幕開けだった。
かつてニュージーランド全土の85%以上を占めていた原生林は、2010年までに約30%にまで減少。現在でもニュージーランドの土地利用の約55%はヒツジや牛の「牧草地」だ。

さらに、現代にも続くニュージーランドの自然の苦難を招いたのは、移住してきたイギリス人が、森を牧草地に開墾すると、そこに遠く故郷の風景を再現しようとしたことだ。

電話やメールなど通信機器のない当時の移住は、想像を絶する孤独との闘いだったのかもしれない。しかし、結果がどうなるか当時は知らなかったとはいえ、彼らは母国の生き物を野に放ってしまった。故郷の鳥の声を聴きたいと何十種類もの外来の鳥を放ったし、狩猟をしたいと鹿やヤギ、豚などあらゆる狩猟用哺乳類を野生に放った。牧草地にウサギを持ち込み、そのウサギが増えすぎると管理のためにイタチを放った。毛皮の産業を作ろうとポッサムを輸入し、失敗するとこれも野生に放った。ネズミは貨物船の荷物に紛れていとも簡単に侵入した。

これらすべての哺乳類は、外敵のいないニュージーランドの自然にたやすく適応し、あるいは母国以上の勢いで繁殖して、取り返しのつかないレベルにまで大繁殖をしてしまった。飛べない鳥たちにとっては、これらすべてが生物的に上位にいる「外敵」だ。襲われたらひとたまりもないし、そもそも平和な島で進化した鳥たちには防御の手段そのものがない。こうして、少しずつ追いつめられてじわじわと数を減らし、最終的には50種類もの鳥たちが絶滅してしまったのだ。

現在のニュージーランドの自然保護活動

オークランドの鳥の楽園ティリティリマタンギ島
オークランドの鳥の楽園「ティリティリ・マタンギ島」

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現代にも残る飛べない鳥たちを守るには、一にも二にも、外来の哺乳類を駆除することが求められる。平和な島に生まれた鳥たちにとって、ほかの大陸からやってきた哺乳類は強すぎて共存できないからだ。

しかし、数千万匹もいるとされるニュージーランドのポッサムを駆除する方法は今のところないし、ましてはそれ以上いるネズミやイタチを駆除する方法もない。

そこで今、ニュージーランドで注目されているのは「島」だ。沖合の島なら、一度哺乳類を駆除してしまえば簡単には侵入できないから、鳥の楽園を取り戻すには都合がいい。ニュージーランドの自然保護活動は、外来種駆除&植林による「島の楽園化」がさかんに行われている。同様に外来種を締め出しやすい半島部分でも同じように保護活動が活発だ。

オークランド沖合の鳥の楽園「ティリティリ・マタンギ島 Tiritiri Matangi Island」などはその先駆けの成功例として名高く、保護区としてだけでなく珍しい鳥がみられる観光地としてもガイドブックに載るまでになっている。島では有志によるガイド・ウォークも行われているから、二ュージーランドの自然を知りたいと思う方はぜひ足を運んでみよう。きっとこのページに書かれていることを、自分の目で見て感じることができるはずだ。

オークランドの沖合にあるティリティリ・マタンギ島(Tiritiri Matangi Island)。この島はニュージーランドで絶滅の恐れのある貴重な鳥たちが飛び交う、“鳥の楽園”だ。この記事では、ティリティリ島に行ったら見ておきたい鳥たちを10種類挙げてみよう。1.タカへ タカへ@tiritiri matangi island ティリティリ・マタンギ島(以下、ティリ島)と言えばこの鳥、と言ってもいいくらい、ティリ島の顔として人気のあるタカへ。ニュージーランドを代表する飛べないクイナ科の鳥で、NZにしかいない固有種。また、一度は絶滅したとさ...

  人間がやってくるまで哺乳類がおらず、”鳥の楽園”だったニュージーランド(コウモリを除く)。長きに…

Last Updated on 2022年9月25日 by 外山みのる

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